1.はじめに
コラム第3回目は、1947年のAAF、US-NAVYの飛行服〜なかでも冬用のもの〜について掘り下げてみます。
WW2中や朝鮮戦争のころの飛行服は現物や写真も多く、それなりに情報はあるように思います。ところが2つの戦争にはさまれたこの時期の情報はほとんど伝わってきません。
例えば、USAFならN-2やN-3ジャケット。いつから登場したのかは仕様書上でしか知ることはできません。B-15Bはこの時期にはナイロンだったのでしょうか。あるいはネイビーのAL-1ジャケット。こちらは資料がまったくないといってもいいほどです。
当時はWW2も終わり、飛行服がありあまっていた頃。発注はほとんどなかったといっていいでしょう。軍にとって、ちょっと頭を冷やしたい期間だったのではないでしょうか。
今回は、こうしたあまりスポットの当てられていない時期の飛行服を当時の資料に基づいて紹介してみたいと思います。(※ Footwearに関する内容は割愛しました。)
2.資料の紹介
USAFとして独立する直前の1947年4月18日に発行されたAAFのAIR MATERIEL COMMAND、AERO MEDICAL LABORATORYの報告書を紹介します。

トータル25ページからなる資料で、冬用の飛行服としてAAFのプロジェクトXB-67という冬用のセット(N-3のテストサンプル?)やネイビーのAL-1セットなどを比べ、どちらが温かいかを実験データをもとに論じています。AAFとネイビーの飛行服を同時に比較するといった例はあまり見かけなかったように思います。なお、実験ではコットン80-ウール20の下着とODシャツ&トラウザーズを下に着用しています。
このころはWW2の終戦直後で、米軍は規模縮小を進めていました。そんな中、ネイビーの飛行部隊とAAFを統一するような話もささやかれており、AAFにとってもネイビーにとっても微妙な時期だったのではないでしょうか。
3.ネイビーの冬用飛行服
それでは、まずネイビーの方からです。資料にはタイプ名やSPEC名は記載されていませんが、以下のような 『2ピーススーツ』 と 『4ピーススーツ』 が実験の対象に選ばれています。(キャプションは原文のままです。)

Fig.1) Four Piece Navy Flying Suit
Denoting Two Piece Intermediate Suit Worn under coverall and Vest Hood

Fig.2) Four Piece Navy Flying Suit
Without Vest Hood

Fig.3) Four Piece Navy Flying Suit
Complete Assembly
なんのことはない、Fig.1はいわゆるAL-1ジャケットとWL-1トラウザーズのペアで、Fig.2はその外側にWN-1スーツ(後にAL-1カバーオールと改名)を、Fig.3はさらにAW-1フードを着用したものです。
拙書FULL GEARを執筆していたときには、AL-1ジャケット等とAL-1カバーオールとの関係がわからなかったのですが、これらはもともと4ピーススーツとして開発され、AL-1ジャケット、WL-1トラウザーズはintermediate用だったことがわかりました。また、AL-1カバーオールは実物で見かけるとサイズが大きいのでいつも不思議に思っていましたが、AL-1ジャケット等をインナーに着用できる設計になっていたことがわかりました。
Vest Hoodというユニークな呼び方もこの資料で初めて知りました。どちらかというと、AL-1ジャケット用というより、AL-1カバーオール用として設計されていたようです。
この資料に記載されている飛行服の素材情報を抜き出してみます。
(なんだかレシピみたい〜♪)
| 【NAVYの4ピーススーツ (Fig.1,2,3) の素材情報】
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・Intermediate Jacket 〜アウターシェルはバードクロス(BYRD CLOTH)。ライニングはウールが裏側についたアルパカ。ソデのライニングはレーヨン。エリのインターライニングはウール。
・Intermediate Trousers 〜アウターシェルはバードクロス。ライニングは14オンスのウール。
・Heavy Coverall 〜アウターシェルはナイロン。ライニングは5オンスのウールが裏側についたアルパカ。(DRYBAK社製と記載あり)
・Vest Hood 〜シェルはバードクロス、フードのライニングはアルパカでその縁はムートン。外側のフードフラップの縁はウルフのファー。
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はたしてこれらが開発途中のサンプルなのか、あるいは正式に仕様が決まっていたのかどうかはこの資料だけではわかりませんが、ネイビーでは、この時点で上記の4点セットが冬用の飛行服として完成していたということだけは間違いなさそうです。W-1シャツが入っていないのは意外でした。

Fig.4) AW-1フード

Fig.5) W-1シャツ
4.AAFの冬用飛行服
さて、一方のAAFは冬用の飛行服に以下のような 『3ピーススーツ』 を考案していたようです。

Fig.6) Jacket, Flying, Heavy, Utility (Assembly)
Project XB-67
Trousers and Shirt without Jacket

Fig.7) Jacket, Flying, Heavy, Utility (Assembly)
Project XB-67
Complete Assembly
「XB-67」というプロジェクトで検討していた3ピーススーツですが、ジャケットはまるでD-2ジャケットをジッパーフロントにしてナイロン製にしたような外観です。N-3のようなボタン留めの前立はまだなく、ソデ先はN-3Bのようなニット内蔵型のようです。これが一年を経た後に1948年9月にN-2ジャケット/D-1トラウザーズ、N-3ジャケット/F-1トラウザーズになるのでしょう。
トラウザーズはポケットやスソのフラップからD-2ジャケットのペアであるB-2トラウザーズのナイロン版といった印象を受けます。これが後にF-1トラウザーズになるというのはやや飛躍があるようにも思えますが...。さて、インナーのウールのシャツですが、後のA-1シャツそのままの形です。その名がどこにもないのはA-1シャツという名前がこの時点では存在しなかったためでしょう。なお、インナーのE-1トラウザーズはまだ登場していなかったようです。そういえば、まさかこのジャケットが欠番の 『N-1』 じゃぁないよなぁ...。
(N-3、F-1、A-1、E-1の着用方法についてはこちらをご参照ください。>> ブログ01.26)
このXB-67スーツの素材情報は以下です。
| 【AAFのXB-67スーツ (Fig.6,7) の素材情報】
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・Jacket 〜アウターシェルは5.25オンスのナイロン。ライニングは3.25オンスのナイロンツイル。インターライニングは16オンスのサーマルクロス。
・Trousers 〜ジャケットと同様。
・Shirt 〜OD色の20オンスのウール。
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ここでいう 「サーマルクロス」 が何を指すのかわかりませんが、ジャケット、トラウザーズともに、後のN-3等に使われる1/2インチ厚のウールパイル(19オンス)ほど厚手のものではないようです。シェルのナイロンは5.25オンスということで、N-3等の5.4オンスと大差なさそうです。ジャケットだけ見る限りではやや薄めのN-3といったところでしょうか。
(ナイロン製のN-2やN-3が1945年に登場したような話をマニアさんから聞いたことがありますが、出典は何だったのかなぁ...)
さて、上述のネイビーのIntermediate用のスーツ(いわゆるAL-1/WL-1)に対して、本実験では当時のAAFのIntermediate用のスーツ (Standard) を比較対照しています。

Fig.8) Suit, Flying, Intermediate, Two Piece
(B-15 Jacket and A-11A Trousers)
資料では一貫して 「B-15ジャケットとA-11Aトラウザーズ」 という表現になっています。しかも 「Standard」 という表現もみられます。写真で細部を見るかぎりでは、コットン製のB-15BとA-11Bという方がしっくりくるのですが...。素材の情報は以下の通りです。
| 【Intermediateスーツ (Fig.8) の素材情報】
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・Jacket 〜アウターシェルはボートクロス(BOAT CLOTH)。ライニングは50-50のアルパカ&ウールパイル。エリはムートン。ソデとウェストはニット(素材は未記載)。
・Trousers 〜ジャケットと同様。
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この時期のStandardのB-15の上下ならナイロンシェルを想像していたのですが、どうも違うようです。シェルは 「ボートクロス」 なる素材です。たいした根拠はありませんが、素材の光沢(こうたく)からみてナイロン製ではなさそうです。セイルクロス(帆布)のことでしょうか。ライニングはアルパカ&ウールパイルとのこと。レーヨンのライニングでカバーされていることはなかったのでしょうか。うーん、もうちょっと情報が欲しかったなぁ...。
5.考察
この報告書は実験データに基づいて議論されており、グラフなんかも何枚もあってなかなかおもしろいのですが、本コラムで紹介するのは趣旨が違うのでさすがにやめておきます。
要約すると、『ネイビーのフルスーツとXB-67スーツに大差はない。両スーツとも-54℃で90分までは耐えられる。IntermediateのスーツではB-15/A-11Aの方がネイビーのものよりも8.5%ほど熱損失が少ないが、どちらも-7.2℃なら120分までは十分である』、といったところでしょうか...。
それにしても、AAFはこのXB-67をさらに低温域用に発展させてN-3/F-1/A-1/E-1スーツ等の仕様書を翌年に発効することになるのですが、そこまで低温用の飛行服にこだわったのはなぜでしょう?当時、極寒の土地での戦闘を視野に入れていたからというのは憶測が過ぎるでしょうか。
6.まとめ
あまり情報のないWW2と朝鮮戦争の合間の1947年の冬用の飛行服を紹介しました。
ネイビーはAL-1ジャケットやその上に着るWN-1スーツ(後のAL-1カバーオール)を完成させ、独自の4ピーススーツの構想もあったようです。
一方のAAFでは、ナイロン製のN-2やN-3といったジャケットはまだ登場しておらず、この実験の結果も踏まえて仕様書が作られたようです。なお、この時期にはStandardのB-15はまだナイロン製ではなさそうだということがわかりました。
本サイトでは扱わない予定だったテストサンプルの内容も入ってしまいましたが、ミステリーゾーンに位置するいくつかの飛行服をご紹介してみました。飛行服史のジグソーパズルがほんの少し完成に近づいたらいいのですが...。
※ 今回紹介した写真は20cm×23cmといった大きなもので、細部まで克明に見えるのですが、普通のコピー機でコピーして持ち帰ったので、なんだかシケた画像になってしまいました。そんなコピーでも大きな画像で見たいという方はメールください〜♪
<参考文献>
Aero Medical Laboratory, Army Air Forces Air Materiel Command, Serial No. TSEAA-696-105D, “Memorandum Report on Insulation of Clothing Assemblies and Footgear”, 18 April 1947.
【コラムのコラム】 USAFの未知のフードつきスーツ〜♪
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未知ネタのついでに、N-2のツナギらしきものを紹介しておきます。ほぼ同じ時期に開発されたようです。

Fig.9) 未知のフードつきスーツ
この写真は1951年3月21日に報道用に撮られたものです。写真の裏の解説によると、USAFのAir Materiel Commandが開発したツナギ型の電熱服で、-65℃というごく低温での使用を想定して作られたようです。グローブもブーツも電熱式とのこと。タイプ名などは記載がなく詳細は不明です。
写真はサイズ18×23cmと大きめなので細かい部分までよくわかります。よく見ると、フードは背中側で分割できるようになっており、これはN-2と同じ方式だと思われます。おもしろいのはパラシュートハーネスの装着方法です。分割したフードの 「上に」 ハーネスをつけているのが見てとれます。N-2 等にハーネスを装着している写真はめったにないので、あのやっかいな大型のフードを緊急時にどんな風に扱う設計だったのか、うかがい知ることができますね。こんなちょっとした写真でもいろいろと情報が得られるので、飛行服の研究はやめられません。みなさんの手元にも参考になる資料があったら教えてくださいね〜♪
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